鹿角平天文台通信

星 に 一 徹

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「天文台長になったライダー」


写真/今村さん(後ろは浄土平天文台)
いまむら ひさし/1967年生まれ。
射手座 B型。YH職員〜日本放浪
の旅をへて、浄土平天文台台長に。
バイク・登山・天文と多趣味だが、
根は同じまだ見ぬ世界への探求心
だ。
今村さんのHPのURLは
http://code-b.la.coocan.jp/


※1999年取材当時のもの
アウトライダー2000年4月号 





 「よかったら天文台、見ていってください」
そう声をかけられたのは、福島県磐梯吾妻スカイラインでのことだ。声の主は浄土平天文台台長の今村尚さん(正式には観測所長)。
 ハタカブに乗った珍しいライダーがいるなーと嬉しくて声をかけてしまったとのこと。ご自身も台長になる直前まで、スズキSXで日本半周の放浪の旅をしていたという。その日は詳しい話は後程と別れたが、流れる旅の終着駅が今の仕事で、旅で人生が変わった人もいると思うとウキウキした。

−−来る途中思ったんですが、道も星空も山も素晴らしい環境の仕事場ですね。通勤がツーリングじゃないですか。通勤はバイクで?

「いや〜バイクで通勤すると、天に続くこの道を越えて、会津に抜けたくなっちゃうんで車です。それに毎日遅刻寸前で飛ばしてくるので、風景なんか見てる暇がないんですよ。」

−−この道を遅刻する〜とカッ飛んでる人がいるなんて想像外ですよ。隣の芝生は青く見
えるもんですね。ところで静岡出身の今村さんが福島に流れ着いてなぜ天文台に? 台長になられる前はどんな旅をしてたんですか?
「もともと旅が好きで、鉄道や自転車で回ってました。旅で受けた恩を少しでも帰せる仕事がしたいと、YH(ユースホステル)協会
に就職しました。星も好きだったし、どうせなら天文台のある福島市のスターハントYHがいいなと…。バイクはこの時からです。慣らしが済んだらすぐ北海道に行きました。途中で奈良に転勤になったんですが、向こうはどうもあわなくて、自分を失っちゃったんです。それで退職し北アルプスの小屋で夏期バイトをしながら過ごしたんですが、まだ考える時間が足りない。考える前に動いてみよう、自分はまだ何も知らないんじゃないか。いろんな事を見て感じて確かめようと、寒くなるので取りあえず南に漂泊の旅にSXで……」

−−それはバイクでなくても良かったんじゃ?
「やはりバイクですよ。自分で考え、自分のペースで進んだり止まったり、感じた事を吸収する余裕ある旅……無駄を余裕と読み替える力が無いとなんでも続けられないんですね。この旅での沢山の出会いは宝です。いろんな人、いろんな感じ方、考え方があると気づきました。当たり前の事も日常の中では埋もれて見失ない易いんですね。今でもバイクに乗って、溜まった埃を吹き飛ばさないと駄目です。その旅の途中で、浄土平に天文台ができるからと福島に戻ったらいつのまにか台長に……」
−−今村さんはツーリングに、星空観望用に42×7の双眼鏡を持って行くそうですが、星空なんか全国どこでも変わらないのでは?
「日本は南北に長いですから、そうでもないですよ。北に行けば北極星の高さ、南に行けば南天の星座がだんだん地平線から高くなって輝きが全然違います。同じだろうと言われればそうですが(笑) でも星空に浮かび上がるその土地ならではのシルエットは印象深いんですよ。星座じゃなくても季節の三角とかだけでも知っているとツーリングの幅が広がる筈です。地域限定の星座といえば沖縄以南で見られる南十字星ですね。ぜひ見ようと粘ったんですが、昼間走り回りすぎて夜は爆睡しちゃって、見れなかったんですが……」

−−それはライダーとして正しいですよ(笑)星見は夜の暇つぶしでいいじゃないですか?
「そうですね(笑) 天文ファンは星空でなく天体が目当てだし、山屋やチャリダーは夜を楽しむ余力がない。車だと夜をすごせる道具が積めるし、星空を一番自由に楽しんでるのはキャンプライダーだと思っています。それに旅先は星空が綺麗な場所が多いし、旅に出ている高揚感もあって、宇宙に吸い込まれるような浮游感が体感できる筈です。これを感じる為にぜひ、チラッとじゃなくて目が闇になれる10分以上は寝転んで星空を見て欲しいですね。私の場合そのまま寝てしまうことが多いんですが、それがまた気持ちいいんですよ」

−−話は尽きませんが、最後に締めの言葉を。
「青空を、星空を仰ぐと言うのは誰にでもできる一番簡単な、とても大切な術です。この世で一番大きな、どこにでも繋がっている風景です。空を仰ぐことから全てが始まるんです。理屈でない何かを感じてください」

 観測より星空をボッーと仰ぐのが似合う台長でした。春に離福し新たなる道を模索すると残念な連絡が届いたが、新たなる旅立ちとなる別れを祝いたい。Journey To The Star ! またいつか星と旅の話を聞かせてくださいね。

1967年-2023年
今村 尚

YH職員〜日本放浪の旅をへて、浄土平天文台台長となり
退館後は
「本当によく見える望遠鏡を、多くの子供たちが買える値段で届けたい」
という、理念が自分にあってるとスコープテックのスタッフ今村として
星空情報メールなどの情報発信や田奈の観測会などで
初心者や子どもたちへの天文普及に尽力した。

Journey To The Star ! いつか星の海で!

 
YAMANON-BLOG「さよならブドリ。今村尚のこと  




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